円周のベクトル n 乗根軌跡の研究

特に円周率やレムニスケート周率を拡張して高次レムニスケート周率を定義する方法の私案




§0.はじめに.


 ここで扱う内容は2008年に「 円周率 π の近似計算 」を書いたときにその後半あたりで述べておいた事柄をさらに高次式に拡張したものである.

 後に上記の内容を振り返って2010年に「 たった一つの整数から円周率を計算する方法 」の執筆に着手したときに同時に書いてみたいと思っていた課題でもあった.

 しかし2011年の2月頃より,母が高齢者介護の状態になってしまい,暫くは経済的な心配,介護体制の模索,母の緊急入院,などに煩わされていたので,、

 とても書いてみる心のゆとりなどなかったのである.

 最近の母の症状は在宅介護で症状は固定的(介護認定4+障害一級(座位不能))ではあるが、意識や体力は比較的しっかりしている.

 また、私のことも含めて日常生活も様々な面で初めの頃よりは楽になってきた.

 私自身の精神的な面においても疲労がかなり少なくなってきたと感じられる.

 そんなわけで、長年温め続けてきた課題にまた取り組んでみたいと、最近になって思い至った次第である.

 筆者( 2014'07'09/wed. )



§§1.序章.
 
§1‐1.主な課題.


  z = x + iy, w = u + iv                                                  (1-1-1)
                                         
  w = f(z) = zn - 1               ( n = 1,2,3,… )                (1-1-2)


 ここで |w| = 1の等高線を適度に拡大すると

  |Z| = 2(n-1)/n( 2cos(nθ) )1/n,  (  0 ≦ θ ≦ π/(2n) )           (1-1-3) 

としてベクトル軌跡 C(|Z|, θ) が得られる.

 このような曲線 C の線積分をうまく取れば、その基本部分の長さから,

 n = 1 のとき円周率( 第0次レムニスケート周率 )

 n = 2 のときレムニスケート周率( 第1次レムニスケート周率 )

    ̄    ̄    ̄
 n = n のとき高次レムニスケート周率( 第n-1次レムニスケート周率 )

であるように定義できると考えられる.
 
 本稿ではこれらを詳細に研究する.


§1‐2.w = zn - 1 の等高線の方程式.

   z = x + iy

を極座標式で表せば,θ = tan-1(y/x) として

  z = |z|( cos(θ) + isin(θ) )                          (1-2-1)

と表される.

  ∴ w = zn - 1

      = (  |z|( cos(θ) + isin(θ)) )n - 1    (1-2-2)

 ここで有名なド・モアブルの定理

  ( cos(θ) + isin(θ) )n = cos(nθ) + isin(nθ)    (1-2-3)

から

  w = |z|n( cos(nθ) + isin(nθ) ) - 1        (1-2-4)

 ゆえに

  w = u + iv                                         (1-2-5-1)

として

 u = |z|ncos(nθ) - 1                             (1-2-5-2)

  v = |z|nsin(nθ)                                 (1-2-5-3)

 ∴ |w| = √( u2 + v2 )

   = √(( |z|ncos(nθ) - 1 )2 + ( |z|nsin(nθ) )2))

   = √( |z|2n - 2|z|ncos(nθ) + 1 )       (1-2-6)

 この (2-6) で |w| = Const. とすれば等高線の方程式となる.

 ここで特に |w| = 1 のときは

  |z|2n - 2|z|ncos(nθ) = 0                (1-2-7-1)

 これを解いて

 |z| = ( 2cos(nθ))1/n または |z| = 0                (1-2-7-2)

 ここで領域を

 1 ≧ cos(nθ) ≧ 0    ( 0 ≦ nθ ≦ π/2 )                 (1-2-7-3)

に制限しておけば

  21/n ≧ |z| ≧ 0   ( 0 ≦ θ ≦ π/(2n) )          (1-2-7-4)

 ここで

  |Z| = 2(n-1)/n|z| = 2( cos(nθ) )1/n          (1-2-7-5)

とすれば,

  2 ≧ |Z| ≧ 0         (1-2-7-6)

となり |Z| は n とは無関係に同じ範囲を動く.

 このような |w| = 1 の等高線の拡大 C( n, |Z| = 2(n-1)/n|z|, θ ) を単に Cn と書いて良いとすれば,

 (2-7-3) の条件のとき |w| = 1 の等高線と Cn のどちらにおいても

 x ≧ 0, y ≧ 0          (1-2-7-7)

が成立する.

 ゆえに,この条件のときこれらの曲線は (x,y) 平面の第一象限内にある.

 |z| と |Z| の関係をもう少し詳しく述べれば,実数の相似率を R として,

 Z = Rz          (1-2-8-1)

とすれば,

 zn - 1 = w   →   ( Z/R )n - 1 = w         (1-2-8-2)

  ∴ Zn - Rn = W   →   Z = Rz, W = Rnw              (1-2-8-3)

  結局,先ほどの (2-7-4) の |z| と (2-7-6) の |Z| との間には,

 R = 2(n-1)/n          (1-2-8-4)

の相似率があったことになる.

 ∴ |Z| = 2(n-1)/n|z| = R( 2cos(nθ) )1/n          (1-2-8-5)



§§2.トーラス(輪環面)の等高線類.

§2-1.カッシーニの卵形曲線.


 はじめにトーラス(輪環面)について簡単に述べておこう.

 次の公式で与えられる三次元曲面を一般にトーラス(輪環面)という.

 ( √( x2 + w2 ) - R )2 + y2 = r2     (2-1-1)

  この曲面は[図2‐1]のような曲面となる.( ただし |w| を等高線軸として表す.)

 ここで R を大半径,r を小半径と呼ぶ.

 ( この R と前節の相似率 R に同じ記号を使った理由はまもなく文脈から暗黙の内に分かるはずである.)



【図2-1】 トーラス(輪環面)

※[ 画面をスクロールしたために画像が流れて壊れてしまったり,灰色で見えなくなってしまったときは,画像の外枠を画面の中央付近にスクロールしてから静止させ, URL検索窓の横の巴矢印の「最新の情報に更新(F5)」と書かれた四角い釦を押すと修復できるようです。(Windows7の場合の自己流裏技)]
 さらに (1-1) を変形すると,
 
 x2 + y2 + w2 + R2 - r2 = 2R√( x2) + w2 )

 (  x2 + y2 + w2 + R2 - r2 )2 - ( 2Rx )2 = ( 2Rw )2

 ( ( x + R )2 + y2 + w2 - r2 )( ( x - R )2 + y2 + w2 - r2 ) = ( 2Rw )2        (1-2)

 ここで w = r なら

 √( ( x + R )2 + y2 )√( ( x - R )2 + y2 ) = 2Rr          (1-3)

となり,二定点 ( -R, 0 ), ( R, 0 ) からの距離の積が一定値であるような2輪一組の曲線を表している.

 さらに R ≠ 2r ならカッシーニの卵形曲線といい【図‐2ー2】のような曲線となる.

 (【図2-2】,【図2-3】では【図2-1】を真上から眺め, R も変えている.)



【図2-2】 カッシーニの卵形曲線( |w| = r ≠ R/2 )



§2-2.レムニスケート曲線.


 前節で特に,

  |w| = r = R/2          (2-2-1-1) 

 ならば

 ( x2 + y2 + R2 )2 - ( 2Rx )2 = R4          (2-2-1-2)

となり,ここで,

 x2 + y2 = z2          (2-2-1-3)

  x = |z|cos(θ)                                         (2-2-1-4)

とおけば,

 z4 + 2R2z2 = 4R2z2( cos(θ) )2

  ∴ z2 = 2R2( 2cos(θ)2 - 1 ) = 2R2cos(2θ)

  ∴ |z| = R√( 2cos(2θ) )            (2-2-1-5)

 この曲線 C( |z|, θ ) を レムニスケート曲線(連珠形)といい【図2-3】のようになる.

 特に

 θ = 0   →   |z| = √2・R          (2-2-2-1)

 |z| = 0   →   cos(2θ) = 0   →   θ = π/4          (2-2-2-2)
  
 ∴  ( √2・R ≧ |z| ≧ 0 )          (2-2-3-1)

      ( 0 ≦ θ ≦ π/4)          (2-2-3-2)



【図2-3】 レムニスケート曲線(連珠形)( |w| = r = R/2 )



§§3.鞍形放物面の等高線類上に出現するレムニスケート曲線と円周等分方程式上の同様な等高線類.


§3‐1.鞍形放物面の等高線類上に出現するレムニスケート曲線.


 レムニスケート曲線は前述のようにトーラス(輪環面)の切断面で説明されることが多い.

 しかし,私はガウスの円周等分方程式

 w = f(z) = zn - 1, z = x + iy, w = u + iv          (3-1-1-1)

の等高線類を自作の Java-Applet のプログラムで作図していて気づいたことだが,

 n = 2, |w| = 1          (3-1-1-2)

の等高線も

 |z| = √( 2cos(2θ) )     ( 0 ≦ θ ≦ π/4 )          (3-1-1-3)

であり以前に既述の式で R = 1 と置いたレムニスケート曲線であることを発見した.(【図3-1】)



【図3-1】 w = z2 - 1, |w| = 1 の等高線類に出現するレムニスケート曲線


 これらの関係について任意の n, |w| = 1 の場合を考察するためには次の【図3-2】のような ( x, y ) 平面と ( u, v ) 平面の対応を考えておくと分かり易いと思われる.

 特に ( u, v ) 平面では等高線 |w| = Const. は常に原点を中心とした半径 |w| の同心円となるのでこちら側から ( x, y ) 平面を見直すと分かり易い. 



【図3‐2】 n = 任意, |w| = 1 の場合における ( x, y ) 平面と ( u, v ) 平面の対応


 それではこれらに基づいて n = 2, |w| = 1 の場合において ( x, y ) 平面上の曲線が (3-1-2) で示されるようなレムニスケート曲線であることを導こう.

 w = zn - 1 = ( x + iy )n - 1 = |z|n( cos(nθ) + isin(nθ) ) - 1          (3-1-2-1)

  w = u + iv, |w| = 1          (3-1-2-2)

 ∴ U = u + 1 = |z|ncos(nθ)          (3-1-2-3)

    v = |z|nsin(nθ)          (3-1-2-4)

  u = |w|cos(ψ) = cos(ψ)          (3-1-3-1)

  v = |w|sin(ψ) = sin(ψ)          (3-1-3-2)    

  |T| = √( U2 + v2 ) = |z|n          (3-1-4-1-1)

  |T| = √( ( cos(ψ) + 1 )2 + sin(ψ)2 ) = √( 2cos(ψ) + 2 ) = √2√( cos(ψ) + 1 ) = √2√( 2cos(ψ/2)2 )

      = 2cos(ψ/2)          (3-1-4-1-2)

  U = cos(ψ) + 1 = 2( cos(ψ/2) )2          (3-1-4-2)

 ∴ |z| = ( 2cos(ψ/2) )1/n = √( 2cos(ψ/2) )         (3-1-5)

  cos-1( U/T ) = cos-1( ( |z|ncos(nθ) )/( |z|n ) ) = cos-1( cos(nθ) ) = nθ          (3-1-6-1)

  cos-1( U/T ) = cos-1( ( 2cos(ψ/2)2 )/( 2cos(ψ/2) ) ) = cos-1( cos(ψ/2) ) = ψ/2          (3-1-6-2)

 ∴ θ = ψ/(2n) = ψ/4          (3-1-6-3)

 ∴ ( 2 ≧ |T| ≧ 0 )   →   ( √2 ≧ |z| ≧ 0 )          (3-1-7-1)

  ∴ ( 0 ≦ ψ ≦ π )   →   ( 0 ≦ θ ≦ π/4 )          (3-1-7-2)

 ゆえにこの曲線は R = 1 と置いたレムニスケート曲線である.

 

       例年になく 雨愚図りな夏休み ようやく終る

      時計の吐息 そこはかとなく 過去の今頃 我偲びおり  (活己)( 平成26年8月末日発句-10月13日推敲 )



§3‐2.w = zn - 1, |w| = 1, 様々な n の場合の等高線とその周辺の等高線類.


 参考までに【図4-1】~【図4-8】を掲載しておく.

 円周等分方程式とは美術的にこんなにも美しいものだったのである.

 自然界にも花弁の形などにこのような数学が反映されているように思われる.

 人間も含めて生物は数学を知能以外の感覚で捕らえているのかも知れない.

 日本文化的にも御所車や蛇の目傘の模様に類似の対象性の応用が見うけられる.





【図4-1】 w = zn - 1, n = 1, |w| = 1 の等高線とその周辺の等高線類( 緑線は等角線群 )





【図4-2】 w = zn - 1, n = 2, |w| = 1 の等高線とその周辺の等高線類( 緑線は等角線群 )





【図4-3】 w = zn - 1, n = 3, |w| = 1 の等高線とその周辺の等高線類( 緑線は等角線群 )





【図4-4】 w = zn - 1, n = 4, |w| = 1 の等高線とその周辺の等高線類( 緑線は等角線群 )





【図4-5】 w = zn - 1, n = 5, |w| = 1 の等高線とその周辺の等高線類( 緑線は等角線群 )





【図4-6】 w = zn - 1, n = 6, |w| = 1 の等高線とその周辺の等高線類( 緑線は等角線群 )





【図4-7】 w = zn - 1, n = 8, |w| = 1 の等高線とその周辺の等高線類( 緑線は等角線群 )





【図4-8】 w = zn - 1, n = 12, |w| = 1 の等高線とその周辺の等高線類( 緑線は等角線群 )



§§4.w = zn - Rn, n = 任意, |w| = Rn の等高線類に関して‐


§4‐1.相似率 R と最大動径.


 しばらくの間,

  w = zn - Rn          (4-1-1-1)

  Rn = 1/2          (4-1-1-2) 

  |w| = Rn = Const.          (4-1-1-3)

  x = |z|cos(θ)          (4-1-2-1)

  y = |z|sin(θ)          (4-1-2-2) 

  u = |w|cos(ψ)          (4-1-3-1)

  v = |w|cos(ψ)          (4-1-3-2)         
 
  ( 0 ≦ ψ ≦ π )          (4-1-3-3)     

として4章の議論を行う.

(【図3-2】,【図5-2】参照.ただし【図5-2】は |z|max = 2 の場合なので,ここでの議論に合わせる為には全ての動径の絶対値を 1/2 倍したと考えよ.)


 既に調べたように,これを解けば,

  |z|n = Rn( 2cos(nθ) )          (4-1-4-1)

  θ = ψ/(2n)          (4-1-4-2)

  ( 0 ≦ θ ≦ π/(2n) )          (4-1-4-3)

  ( 21/nR ≧ |z| ≧ 0 )          (4-1-4-4)

 ゆえに θ = π/(2n) で ( x, y ) 平面の偏角 θ は最大値となるが,このとき |z| = 0 となり動径は原点と一致する.

 これを θo(n) と記せば,

 θo(n) = π/(2n)          (4-1-4-5)

  |z| は 21/nR を最大値に持ち,始線上にある.

 これを最大動径と呼んで |z|max と記せば,

 |z|max = 21/nR          (4-1-5-1) 

 本章では,しばらくの間,

 |z|max = 1   ( ∴ R = 2-1/n )          (4-1-5-2)

として議論を進める.



§4‐2.接線偏角,原点接線偏角,頂点動径偏角.


 前節を踏まえて 曲線 C( |z|, θ ) 上の任意の点 P( x, y ) の接線の傾きを δ と記せば, ([dx/d|z|] で微分記号の代用とする.) 

 δ = [dy/dx] = [dy/d|z|]/[dx/d|z|]          (4-2-1-1)

を求めれば良い.

 そこで,
   
 [dx/d|z|] = [d/d|z|]( |z|cos(θ) ) = cos(θ) - |z|sin(θ)[dθ/d|z|]          (4-2-1-2)

 [dy/d|z|] = [d/d|z|]( |z|sin(θ) ) = sin(θ) + |z|cos(θ)[dθ/d|z|]          (4-2-1-3)

  更に前節の (4-1-4-1) の両辺を |z| で微分して

  |z|n-1 = - sin(nθ)[dθ/d|z|]          (4-2-1-4)

を得る.

 これを変形して,

 |z|[dθ/d|z|] = - |z|n/( 1 - |z|2n )1/2          (4-2-2-1)

または,

 |z|[dθ/d|z|] = - cos(nθ)/sin(nθ) = - cot(nθ)          (4-2-2-2)

を得る.

 ∴[dx/d|z|] = cos(θ) + sin(θ)cot(nθ) = sin(( n + 1 )θ)/sin(nθ)          (4-2-3-1)

    [dy/d|z|] = sin(θ) - cos(θ)cot(nθ) = - cos(( n + 1 )θ)/sin(nθ)          (4-2-3-2)

 ∴ δ = - cot( ( n + 1 )θ ) = tan( ( n + 1 )θ - π/2 )          (4-2-4-1)   

   ( δ = tan( ( n + 1 )θ + π/2 ) は不適ゆえ除外 )
       
 これを吟味すれば,

 ( 0 ≦ θ ≦ π/(2n) )   →   ( - π/2 ≦ δ ≦ π/(2n) )          (4-2-4-2)

 ゆえに ( x, y ) 平面の原点 O での接線の傾きを δo(n) と記せば,

 δo(n) = θo(n)          (4-2-5-1)

  更に δ = 0 となる θ を θt(n) と記せば,( θt(n) は この曲線の頂点の座標における動径偏角である. )

 θt(n) = π/( 2( n + 1 ) )          (4-2-5-2)

  ∴ θt( n ) = θo( n + 1 ) = δo( n + 1 ) = π/( 2( n + 1 ) )          (4-2-5-3)
 
 これを 3偏角一致定理 と私は呼んでいる.(【図5-2】参照.)

 ( 因みにこれらの角度の関係は個々の曲線の相似率 R とは無関係に成立する.)



  


【図5-1】 w = zn - Rn, |w| = Rn, R = 2(n-1)/n, n = 1~12 の場合の等高線類





【図5-2】 w = zn - Rn, |w| = Rn, R = 2(n-1)/n, n = 1~12 の場合の等高線類に関して n 次の頂点動径偏角と n + 1 次の原点接線偏角の一致(本文参照)



§§5.w = zn - Rn, |w| = Rn, R = 2(n-1)/n, n = 任意 の場合の等高線群に関して ‐ 基本部分曲線の求長 ‐

 ( これらの曲線を高次レムニスケート曲線と命名する.)

 本章においても前章の前提を引き継ぐものとする.


§5‐1.最大動径 |z|max = 1 の場合の基本部分曲線の線積分と無限級数展開.


 前章と同様,しばらくの間,

 |z|max = 1   ( ∴ R = 2-1/n )          (5-1-1-1)

  |z|n = cos( nθ )   ( 0 ≦ θ ≦ π/(2n) )         (5-1-1-2)

  x = |z|cos(θ)          (5-1-1-3)

  y = |z|sin(θ)          (5-1-1-4)

とし,この曲線を Cm1と記す.

 さらに,その線積分を ρ(n) と記し,以下のように求めるものとする.( ∫[(下限)a,(上限)b ]( 被積分関数 ) ds で積分記号の代用とする.  )

 ρ(n) = ∫[0,1]( [dx/d|z|]2 + [dy/d|z|]2) )1/2)d|z|          (5-1-2)

 前節で求めた結果を代入して

 ρ(n) = ∫[0,1]( ( sin((n+1)θ)/sin(nθ) )2 + ( - cos((n+1)θ)/sin(nθ) )2 )1/2 )d|z|

        = ∫[0,1]( 1/sin(nθ) )d|z| = ∫[0,1]( 1/( 1 - cos(nθ)2 )1/2 )d|z|

        = ∫[0,1]( 1/( 1 - |z|2n )1/2 )d|z|          (5-1-3)

 これを解くには,

 |z| = 21/nt/( 1 + t2n )1/n          (5-1-4)

と置けば,

 ( 0 ≦ |z| ≦ 1 )   →   ( 0 ≦ t ≦ 1 )          (5-1-5)

 しかも,

 1/( 1 - |z|2n )1/2 = 1/( 1 - 4t2n/( 1 + t2n )2 )1/2

  = ( 1 + t2n )/( 1 - t2n )          (5-1-6)

 さらに,

 [d|z|/dt]

  = 21/n{( 1 + t2n )1/n - t(1/n)( 1 + t2n )-1+1/n(2n)t2n-1 )/( 1 + t2n )2/n}

  = 21/n{( 1 + t2n )-1/n - 2t2n( 1 + t2n )-1-1/n}
 
  = 21/n{( 1 - t2n )/( 1 + t2n )(n+1)/n}          (5-1-7)

 ∴ ρ(n) = ∫[0,1]( 1/( 1 - |z|2n )1/2 )d|z|

         = 21/n∫[0,1]( ( ( 1 + t2n )/( 1 - t2n ) ) ( ( 1 - t2n )/( 1 + t2n )(n+1)/n )dt

         = 21/n∫[0,1] ( 1 + t2n )-1/ndt          (5-1-8)

 上式の被積分関数を二項定理で展開すれば,

 ( 1 + t2n )-1/n = 1 - (1/n)t2n + (1/n)((n+1)/(2n))t4n - (1/n)((n+1)/(2n))((2n+1)/(3n))t6n + …

 … (-1)m(1/n)((n+1)/(2n))…((mn-n+1)/(mn))tmn + …         (5-1-9)

 ゆえに (5-1-8) の定積分を実行すれば,

 ρ(n) = 21/n{ 1 - (1/n)(1/(2n+1)) + (1/n)((n+1)/(2n))(1/(4n+1)) - (1/n)((n+1)/(2n))((2n+1)/(3n))(1/(6n+1)) + 

  … (-1)m(1/n)((n+1)/(2n))…((mn-n+1)/(mn))(1/(2mn+1)) + … }         (5-1-10)

  


§5‐2.高次レムニスケート周率の定義.


 前節までの結果から,さらに,

 |z|max = 2   ( ∴ R = 2(n-1)/n )          (5-2-1)

であるときの曲線を Cm2 と記す.

 さらに,その線積分を μ(n) と記すならば,

 μ(n) = 2ρ(n)          (5-2-2-1)

 この線積分は前節の結果から以下の様に要約できる.

 μ(n) = 2∫[0,1]( 1/( 1 - |z|2n )1/2 )d|z|          (5-2-2-2)

        = 2(n+1)/n∫[0,1] ( 1 + t2n )-1/ndt          (5-2-2-3)

        = 2(n+1)/n{ 1 - (1/n)(1/(2n+1)) + (1/n)((n+1)/(2n))(1/(4n+1)) - (1/n)((n+1)/(2n))((2n+1)/(3n))(1/(6n+1)) + 

          … (-1)m(1/n)((n+1)/(2n))…((mn-n+1)/(mn))(1/(2mn+1)) + … }         (5-2-2-4)

 この式の n に実際の値を代入して得られた数値級数展開の極限値が冒頭に掲げた高次レムニスケート周率に他ならない.

 因みに,これらの曲線 Cm2 は任意の n ( n ≧ 2 ) で直径 2 の上半部分円周に左右の二点で内接する.(【図5-1】)



§5‐3.高次レムニスケート周率の無限級数展開について ‐ 実際に n を代入して得られた数値級数展開の若干の例.


 それでは,前節で導かれた μ(n) の公式に実際に n を代入して数値級数展開を幾つか求めて見よう.

  μ(1) = 4{ 1 - 1/3 + 1/5 - 1/7 + - … (-1)m(1/(2m+1)) + … }          (5-3-1-1)

  この公式はグレゴリーの公式と呼ばれ収束は遅いが円周率 π を極限値に持つことで知られている.


 μ(2) = 2√2{ 1 - (1/2)(1/5) + (1/2)(3/4)(1/9) - (1/2)(3/4)(5/6)(1/13) + - … (-1)m(1/2)(3/4)…((2m-1)/2m)(1/(4m+1)) + … }          (5-3-1-2)

 これはレムニスケート周率に他ならない.

( レムニスケート周率は表示記号として ϖ が用いられる.ω(オメガ)と似ているが上部に横棒のようなものが付着しているところが異なる.

 実はこの文字はπ(パイ)の異字体に当たっており パイバリエーション,パイバリアント あるいは パイバリ とでも読むべき記号である.

 これは特殊文字扱いなので普通のワープロでは出力が困難である,HTML文中ではこの文字を出力したい位置の先頭から,

 キーワードを使用して表示するには & と piv と ; を続けて書くか,または,番号を使用して表示するには & と #982 と ; を続けて書けば良い.)

 
 そこで新たに記号 ϖ(n) を導入し次のように定義する.

 ϖ(n) = μ(n+1)   ( n = 0, 1, 2, 3, … )          (5-3-2)

 ( ϖ(n) を パイバリアント・エヌ あるいは単に パイバリ・エヌ と読むことにしよう.) 

 この準備の下で,もう少し数値級数展開を求めて見よう.

 ϖ(2) = μ(3) = 24/3{ 1 - (1/3)(1/7) + (1/3)(4/6)(1/13) - (1/3)(4/6)(7/9)(1/19) + … (-1)m(1/3)(4/6)…((3m-2)/(3m))(1/(6m+1)) + … }          (5-3-3-1)

 ϖ(3) = μ(4) = 25/4{ 1 - (1/4)(1/9) + (1/4)(5/8)(1/17) - (1/4)(5/8)(9/12)(1/25) + … (-1)m(1/4)(5/8)…((4m-3)/(4m))(1/(8m+1)) + … }          (5-3-3-2)

 ϖ(4) = μ(5) = 26/5{ 1 - (1/5)(1/11) + (1/5)(6/10)(1/21) - (1/5)(6/10)(11/15)(1/31) + … (-1)m(1/5)(6/10)…((5m-4)/(5m))(1/(10m+1)) + … }          (5-3-3-3)

 ϖ(5) = μ(6) = 27/6{ 1 - (1/6)(1/13) + (1/6)(7/12)(1/25) - (1/6)(7/12)(13/18)(1/37) + … (-1)m(1/6)(7/12)…((6m-5)/(6m))(1/(12m+1)) + … }          (5-3-3-4)

 ϖ(6) = μ(7) = 28/7{ 1 - (1/7)(1/15) + (1/7)(8/14)(1/29) - (1/7)(8/14)(15/21)(1/43) + … (-1)m(1/7)(8/14)…((7m-6)/(7m))(1/(14m+1)) + … }          (5-3-3-5)

 ϖ(7) = μ(8) = 29/8{ 1 - (1/8)(1/17) + (1/8)(9/16)(1/33) - (1/8)(9/16)(17/24)(1/49) + … (-1)m(1/8)(9/16)…((8m-7)/(8m))(1/(16m+1)) + … }          (5-3-3-6)

 ϖ(8) = μ(9) = 210/9{ 1 - (1/9)(1/19) + (1/9)(10/18)(1/37) - (1/9)(10/18)(19/27)(1/55) + … (-1)m(1/9)(10/18)…((9m-8)/(9m))(1/(18m+1)) + … }          (5-3-3-7)

 ϖ(9) = μ(10) = 211/10{ 1 - (1/10)(1/21) + (1/10)(11/20)(1/41) - (1/10)(11/20)(21/30)(1/61) + … (-1)m(1/10)(11/20)…((10m-9)/(10m))(1/(20m+1)) + … }          (5-3-3-8)

ϖ(10) = μ(11) = 212/11{ 1 - (1/11)(1/23) + (1/11)(12/22)(1/45) - (1/11)(12/22)(23/33)(1/67) + … (-1)m(1/11)(12/22)…((11m-10)/(11m))(1/(22m+1)) + … }          (5-3-3-9)

ϖ(11) = μ(12) = 213/12{ 1 - (1/12)(1/25) + (1/12)(13/24)(1/49) - (1/12)(13/24)(25/36)(1/73) + … (-1)m(1/12)(13/24)…((12m-11)/(12m))(1/(24m+1)) + … }          (5-3-3-10)


  大変興味深いことは,これらの無限級数展開の極限値の存在は超越数が無限に多く存在することについての簡易な証明になっていることである.

 ( ただし μ(1) が超越数であるとき,任意の n において μ(n) もまた超越数であるという前提を真とする.因みに先述の μ(1) = π や μ(2) = ϖ は超越数であることが知られている.)

 これらの数値の間には

  2(n+1)/n > μ(n) > μ(n+1) > 2        (5-3-4-1)

 あるいは

  21/n > ρ(n)  > ρ(n+1) > 1        (5-3-4-2)

 さらに,
 
 2(n+1)/n > μ(n) > 2          (5-3-4-3)

  21/n > ρ(n) > 1          (5-3-4-4)

などの関係がある.

 21/n の荒い近似計算としては,直後に述べるような ( 1 + x )1/n, x = 1,の二項定理から,

 1 + 1/n > 21/n > 1 + 1/n - ( n - 1 )/( 2n2 )   (5-3-4-5)

がある.


 秋の夜長 数学を思索していて 我はふと 静寂感なお深まるる の中に入る.(活己)( 2014'09'13/Sat. )


 二項定理から,

 ( 1 + x )1/n = 1 + (1/n)x + (1/n)((1-n)/(2n))x2 + (1/n)((1-n)/(2n))((1-2n)/(3n))x3 + … 

        + (1/n)((1-n)/(2n))…(1-(m-1)n)/(mn))xm + …           (5-3-5-1)

 ∴ 21/n = 1 + 1/n + (1/n)((1-n)/2n) + (1/n)((1-n)/(2n))((1-2n)/(3n)) + … + (1/n)((1-n)/(2n))…((1-(m-1)n)/(mn)) + …          (5-3-5-2)



§5‐4.任意の正の実数 k の n 乗根の接線法による近似.


 実際に PC のプラグラムを組んで 2 の n 乗根を計算する場合に前述の (5-3-5-2) では少し能率が悪い.

 そこでもう少し実用的な方法を考案して見よう.

 さらに 2 の n 乗根に限らず任意の正の実数 k の n 乗根が求められるように一般化しておこう.

 x を実数として,

  x > k1/n              (5-4-1-1)  

 y = xn - k           (5-4-1-2)

を考える.( この曲線を C と呼ぼう.)
 
 すると y もまた正の実数となる,

 例えば,

  x1 = 1 + ( k - 1 )/n          (5-4-2-1)

  y1 = x1n - k   (5-4-2-2)

とすれば,

 x1 > k1/n, y1 > 0              (5-4-2-3)

を満たす.

 しかるに (5-4-1-2) で示される曲線 C 上の点( x1, y1 ) に於ける接線の一般公式は,

 y = nx1n-1x - b1          (5-4-3-1)  

で表される.この式に x1, y1 自身を代入すると,

  b1 = ( n - 1 )x1n + k          (5-4-3-2)

  (5-4-2-1) の x 軸との交点の x 座標を x2 とすれば,

 x2 = b1/( nx1n-1 ) = ( ( n - 1 )x1n + k )/( nx1n-1 )

                = (( n - 1 )x1 + k/x1n-1 )/n          (5-4-3-3)

  さらに x2 から立てた垂線と曲線 C との交点を ( x2, y2 ) とすれば,
 
 y2 = x2n - k          (5-4-3-4)

 このような処理を m 回繰り返して曲線 C 上の点 ( xm, ym ) に達したとすれば,

 x1 > x2 … > xm > k1/n          (5-4-4-1)  
 
  y1 > y2 … > ym > 0          (5-4-4-2)

が得られる.

 ところが,

 xm > k1/n, ym = xmn - k          (5-4-5-1)

 から,新たに 

  δm = ym/xmn          (5-4-5-2)

とすれば,

 xm( 1 - δm )1/n = k1/n < xm          (5-4-5-2)

を得る.

 さらに,

 ( 1 - δm )1/n = 1 + (1/n)(-δm) + (1/n)((1-n)/(2n))(-δm)2 + (1/n)((1-n)/(2n))((1-2n)/(3n))(-δm)3 + … 

          + (1/n)((1-n)/(2n))((1-2n)/(3n))…(( 1 - tn + n )/( tn ))(-δm)t + … 

     > 1 - ( δm/n )( 1 + δm + δm2 + … + δmt-1 + … + )          (5-4-5-3)

     = 1 - ( δm/n )/( 1 - δm ) 

     = 1 - ym/( nk )

     = 1 - ( xmn - k )/( nk )          (5-4-5-4)

 ∴ xm( 1 + 1/n - xmn/( nk ) ) < k1/n < xm          (5-4-6)
 

 プログラムを作成し実行して試して見たいことは多々ありますが,とりあえず,ここらで話を切り上げておくことにします.

 本稿終わり.(2018'08'29/wed.)

 


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