微分不変な関数は指数関数であること及び原始形的唯一性の考察.
§0.はじめに.
最近、私は以前と比べて執筆に対する集中力が欠けているように思えてならない.かつては少し書いただけで次から次へと書きたいことが溢れ出して来るようであったのに.
とは云え書いている内にまた以前のような勘が戻って来るかも知れないと淡い期待を抱きつつこれを書いてみることにした.
本稿の主題はそれほど大層なことではなく、実数関数の微積分などではむしろ基本常識的な指数関数の性質についてである.
指数関数とは、いわゆる自然対数の底を ε としたとき εx のことである.この関数は実数変数 x で微分しても積分しても不変な関数である.
このようなことは初等関数の微積分を少しかじった程度でも、いつの間にか常識になってしまうことであろうと思われる.
しかし、私はこの関数について学生の頃(今から約40年も前)から抱いていた疑問がある.
優れた数学者も含めて数学の歴史がどのようにしてこのような関数の存在に気づき、今日の数学の教科書等にあるような明文化に辿り着いたのか?
とは云うものの私の浅学や資料不足や怠慢の性もあって充分な目的が果たせないのではないかと怖れるが、自己流の考察をともかくも展開してみようと思い立った.
特に、私はここでは今日の教科書にあるような指数関数の形式的定義をしてから、それを微分してみて被微分関数と同じであることを云うという従来の本筋の手順を敢えて踏
まない.その理由は、そのような方法を良くない方法だと考えているからではなく,むしろ合理的な方法であるとさえ考えてはいる一方で,
私は微分しても被微分関数と同じになる関数が在るのか無いのかと言うようなむしろ何も知らない初学者の素朴な疑問を出発点として,
冒頭に掲げたような主題と取り組んで見るのも一興であると思ったからである.(2018.10.16/Tues.)
§1.微分不変な関数が存在するという仮定とマクローリンの展開式を利用して微分不変な関数が作れること.そして当初の仮定がもはや真となること.
x を変数として関数 f(x) の一階微分を f'(x),n 階微分を f(n)(x) と書こう.
ここでは,特に f(x) が x で何回でも微分可能な関数であるときだけを扱うことにしたとき,マクローリンの展開式というのは,
f(x) = f(0) + f'(0)x + (f''(0)/2!)x2 + … + (f(n)(0)/n!)xn + … = Σ(n=0,ω)(f(n)(0)/n!)xn (1-1)
のことである.( f(x) が x で有限回しか微分できないときは上式が有限項で途切れるだけのことである.)
微分不変な関数 F(x) が存在すると仮定する.
すると,
F(0) = F'(0) = F''(0) = … = F(n)(0) = … (1-2)
とマクローリンの展開式から,
F(x) = F(0) + F'(0)x + (F''(0)/2!)x2 + … + (F(n)(0)/n!)xn + … = Σ(n=0,ω)(F(n)(0)/n!)xn
= F(0)Σ(n=0,ω)(1/n!)xn (1-3)
ここで,
E(x) = Σ(n=0,ω)(1/n!)xn (1-4)
と定義すれば,
F(x) = F(0)E(x) (1-5)
となる.
§2.E(x) 自体が微分不変な関数であること.微分不変関数の原始形の定義.
(1-5) の両辺を微分して,
F'(x) = (F(0))'E(x) + F(0)E'(x) = F(0)E'(x) ( ∵ (F(0))' = 0 ) (2-1)
∴ E'(x) = E(x) (2-2)
ほとんど自明なことではあるが E(x) 自体が微分不変な関数である.
実際 E(x) の一般項を微分してみれば,
((1/n!)xn)' = (1/(n-1)!)xn-1 (2-3-1)
となるが,ここで有限な実数を a として,
lim( x → a )lim( n → ∞ ) ((1/n!)xn ) → 0 (2-3-2)
を考慮すれば (2-2) が正しいことが分かる.
ここで E(x) を微分不変な関数の原始形であると定義しよう.
然らば (1-5) において微分不変な関数 F(x) は,
F(0) = 1 ならば F(x) = E(x) (2-4)
となるが,このようなとき F(x) を原始形と等価な微分不変関数,あるいは原始形的微分不変関数と呼んで良いとしておこう.
ここで k = Const とすれば
( kE(x) )' = kE(x)
となるが,
特に k = 1 の場合を原始形的と定義した.
更に注意すべきことは,実際に表現されてみると見かけの趣きの異なった原始形が存在することである.
次節でそれを述べよう.
§3.乗法形の原始形的微分不変関数の存在と原始形的微分不変関数の唯一性.
E(x) は加法形であったが乗法形の原始形的微分不変関数も存在する.
t を実数, G(x)を関数として,
G(x) = lim( t → ∞ )( 1 + x/t )t (3-1)
と定義してみる.すると,
(( 1 + x/t )t)' = ( 1 + x/t )t-1 (3-2-1)
lim( t → ∞ )( 1 + x/t ) → 1 (3-2-2)
であることから,
G'(x) = G(x) (3-3-1)
G(0) = 1 (3-3-2)
∴ G(x) = E(x) (3-4)
これは次のように証明しても良い.
商の微分の公式によって,
((G(x)/E(x))' = (G(x)'E(x) - G(x)E'(x))/(E(x))2 = 0 (3-4'-1)
∴ G(x)/E(x) = Const (3-4'-2)
ところが,
G(0)/E(0) = 1/1 = 1 (3-4'-3)
∴ G(x) = E(x)
このようにして,加法形の原始形的微分不変関数と乗法形の原始形的微分不変関数は極限値において同値である.
また微分不変な関数がまだ存在していると仮定しても上の議論でG(x)をそのような関数としてみればE(x) と同値となる.
ゆえに原始形的微分不変関数の唯一性が示された.( この辺は 2019'08'20.Wed. に加筆 )
更に G(x) は次のようにも変形できる.h を実数として,
1/h = x/t (3-5-1)
とすると,
G(x) = lim( t → ∞ )( 1 + x/t )t
= lim( h → ∞ )( 1 + 1/h )hx
= ( lim( h → ∞ )( 1 + 1/h )h )x (3-5-2)
ここで,
G(1) = lim( t → ∞ )( 1 + 1/t )t = E(1) (3-5-3)
また,
lim( t → ∞ )( 1 + 1/t )t = lim( h → ∞ )( 1 + 1/h )h (3-5-4)
が成り立つことから,
G(x) = E(1)x (3-6)
として良い.
実はこの E(1) は自然対数の底 ε = 2.718 … に他ならない.
次節でこのことをもう少し詳しく述べる.
§4.E(1)は自然対数の底 ε = 2.718 … であること.
n を任意の自然数 ( n ≧ 1 ) として
an = ( 1 + 1/n )n (4-0-1)
と定義すると,
an+1 > an (4-0-2)
が成り立つ.これを初等的に証明するには次のようにしても良い.
nn(n+2)n+1 /( n+1 )2n+1
= ( ( n( n+2 ) )/( n+1 )2 )n( ( n+2 )/( n+1 ) )
= ( 1 - 1/( n+1 )2 )n( 1 + 1/( n+1 ) )
> ( 1 - n/( n+1 )2 )( 1 + 1/( n+1 ) )
= 1 + 1/( n+1 ) - n/( n+1 )2 - n/( n+1 )3
= 1 + 1/( n+1 )2 - n/( n+1 )3
= 1 + 1/( n+1 )3 > 1 (4-0-3)
∴ ( n+2 )n+1/( n+1 )n+1 > ( n+1 )n/nn
∴ an+1 > an
ゆえに証明された.
更に,
(1/2)(2/2)(3/2) … (n/2) … > 1 (4-1-1)
∴ n! > 2n ( n ≧ 4 ) (4-1-2)
から
E(1) = Σ(n=0,ω)(1/n!) = 1 + 1 + 1/2! + … + 1/n! + … < 1 + 1 + 1/2 + 1/22 + … + 1/2n + … = 1 + Σ(n=0,ω)(1/2n) (4-2)
ところが
1 + Σ(n=0,ω)(1/2n) = 1 + 1/( 1 - 1/2) = 3 (4-3)
から
2.5 < E(1) < 3 (4-4)
E(1) の n 和は毎回 1/n! で増加するので一定値に収束し自然対数の底 ε = 2.718 … となる.
{ 実際には
f(n) = Σ(n=0,n)(1/n!) (4-5-1a)
g(n) = 1 + Σ(n=0,n)(1/2n) (4-5-1b)
とすれば
( f(0) = 1/0! = 1 ) < ( g(0) = 1 + 1/20 = 1 + 1/1 = 2 ) (4-6-0)
( f(1) = f(0) + 1/1! = 1 + 1 = 2 ) < ( g(1) = g(0) + 1/21 = 2 + 1/2 ) (4-6-1)
( f(2) = f(1) + 1/2! = 2 + 2/4 ) < ( g(2) = g(1) + 1/4 = 2 + 3/4 ) (4-6-2)
( f(3) = f(2) + 1/3! = 2 + 1/2 + 1/6 = 2 + 2/3 = 2 + 16/24 ) < ( g(3) = g(2) + 1/8 = 2 + 7/8 = 2 + 21/24 ) (4-6-3)
( f(4) = f(3) + 1/4! = 2 + 16/24 + 1/24 = 2 + 34/48 ) < ( g(4) = g(3) + 1/16 = 2 + 7/8 + 1/16 = 2 + 15/16 = 2 + 45/48 ) (4-6-4)
( 以下同様 )
}
これでも自然対数の底 ε = 2.718 … は計算できそうではあるがもう少し実用的な不等式で下限と上限を挟み込みながら計算できる方法についてを考えてみよう.
E(-1) = 1/E(1) = 1 - 1 + 1/2! - 1/3! + 1/4! - 1/5! + … + (-1)n/n! + … = Σ(n=0,n)((-1)n/n!) (4-7-0)
を利用して
( d(1) = 1 - 1 = 0 ) < ε-1 < ( u(0) = 1 ) (4-7-1)
( d(3) = d(1) + 1/2! - 1/3! = 1/3 ) < ε-1 < ( u(2) = d(1) + 1/2 = 1/2) → 2 < ε < 3 (4-7-2)
( d(5) = d(3) + 1/4! - 1/5! = 40/120 + 5/120 - 1/120 = 44/120 ) < ε-1 < ( u(4) = d(3) + 1/4! = 1/3 + 1/24 = 9/24 )
→ ( ( 24/9 = 2.666666 … ) < ε < ( 30/11 = 2.727272 … ) (4-7-3)
( d(7) = d(5) + 1/6! - 1/7! = 44/120 + 1/720 - 1/5040 = 1848/5040 + 7/5040 - 1/5040 = 1854/5040 ) < ε-1 < ( u(6) = d(5) + 1/6! = 44/120 + 1/720 = 265/720 )
→ ( 720/265 = 2.7169811 … ) < ε < ( 5040/1854 = 2.7184466 … ) (4-7-4)
( d(9) = d(7) + 1/8! - 1/9! = 1854/5040 + 1/40320 - 1/362880 = 133496/362880 ) < ε-1 < ( u(8) = d(7) + 1/8! = 1854/5040 + 1/40320 = 14833/40320 )
→ ( 40320/14833 = 2.7182633 … ) < ε < ( 362880/133496 = 2.7182836 … ) (4-7-5)
のようにしても計算できる.
念のためにここの原理をまとめておけば,
b/a < ε-1 < b'/a' ⇔ a'/b' < ε < a/b (4-7-6)
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( 2019'08'31_Sat )
( 本稿終わり )