§1.三項式の固有値.



 私たちは誰にでも分ることの例えとして,「そんなことは "1 + 1 = 2" であるのと同じぐらい当たり前のこ

とだ.」などと言います.しかしながら,私たちは必ずしも "1 + 1 = 2" という式が持っている全ての内面的

な性質まで「当たり前」には知っていないかもしれないということをこれからお話してみようと思います.



§1 三項式の固有値の定義.

 a, b, c を 自然数として,

  a + b = c    かつ  ( a, b ) = 1                                                       
                                                                                            (1-1-1)
であれば,新たに,

 s = ( a2 + b2 + c2 )/2                                                         
                                                                                            (1-1-2)
と定義し,s を三項式 "a + b = c" の固有値と名付ける.

 ( ( a, b ) = 1 は a と b の最大公約数が 1 であることを表す.)

 このような s を固有値と呼んだ理由は,少なくとも次のような定理たちが成り立つからである.

[定理1-1]

  s = a2 + ab + b2 = b2 - bc + c2 = c2 - ca + a2                              
                                                                                              (1-2)
[証明]

  s = ( a2 + b2 + c2 )/2 = ( a2 + b2 + ( a + b )2 )/2

  = ( a2 + b2 + a2 + 2ab + b2 )/2
  
  = a2 + ab + b2

  s = ( a2 + b2 + c2 )/2 = ( ( c - b )2 + b2 + c2 )/2

  = ( c2 - 2bc + b2 + b2 + c2 )/2
 
  = b2 - bc + c2

  s = ( a2 + b2 + c2 )/2 = ( a2 + ( c - a )2 + c2 )/2

  = ( a2 + c2 - 2ca + a2 + c2  )/2 

  = c2 - ca + a2

 証明終り.

[定理1-2]

  s = a2 + bc = b2 + ca = c2 - ab                                               
                                                                                              (1-3)
[証明]

  a2 + bc = a2 + b( a + b ) = a2 + ab + b2 = s

  b2 + ca = b2 + ( a + b )a = a2 + ab + b2 = s

  c2 - ab = ( a + b )2 - ab = a2 + ab + b2 = s

 証明終り.

[定理1-3]

  ( a2 + b2 + c2 )2 = 2( a4 + b4 + c4 )
                                                                                            (1-4-1)
[証明]

  今までの定理たちの応用から,

  ( a2 + b2 + c2 )2 = 4( a2 + ab + b2 )2
 
  = 4( a4 + a2b2 + b4 + 2a3b + 2ab3 + 2a2b2 )

  = 4( a4 + 2a3b + 3a2b2 + 2ab3 + b4 )

  = 2( 2a4 + 4a3b + 6a2b2 + 4ab3 + 2b4 )

  = 2{ a4 + b4 + ( a4 + 4a3b + 6a2b2 + 4ab3 + b4 ) }

  = 2{ a4 + b4 + ( a + b )4 }

  = 2( a4 + b4 + c4 )

 証明終り.

 定理1-3を利用すると,次の面白い定理が導かれる.

[定理1-4] 三項-三平方の定理.

  a + b = c  かつ  ( a, b ) = 1

を前提として,さらに,

  x = a2 + b2 + c2 + 1                                                         
                                                                                            (1-5-1)
  y = a2 + b2 + c2 + a4 + b4 + c4
                                                                                            (1-5-2)
  z = a2 + b2 + c2 + a4 + b4 + c4 + 1
                                                          (1-5-3)
とすれば,

  x2 + y2 = z2    かつ   ( x, y ) = 1                      
                                              (1-5-4)
が成り立つ.

[証明]

  u = a2 + b2 + c2                                                             
                                                                                            (1-5-5)
  v = a4 + b4 + c4                                                            
                                                                                            (1-5-6)
とすれば,定理3から,

  u2 = 2v                                                                        
                                                                                            (1-5-7)
が成り立つ.すると,

  x2 = ( u + 1 )2 = u2 + 2u +1                                                 
                                                                                            (1-5-8)
  z2 - y2 = ( u + v + 1 )2 - ( u + v )2 = 2u + 2v + 1 = u2 + 2u + 1          
                                                                                            (1-5-9)
  ∴ x2 + y2 = z2

  また,

 ( y, z ) = ( u + v, u + v + 1 ) = 1

  ∴ ( x, y ) = 1
                                     
 証明終り.

 このような ( x, y, z ) を三項式 ( a, b, c ) に属する三項三平方の定理と名付ける.

[定理1-5] 三平方-三平方の定理.

 三平方の定理も,三項式であることから,この三平方の定理に属する三平方の定理が存在する.

 後者を三平方-三平方の定理と名付ける.

[証明]

 自明であるゆえ,証明は省略.

[定理1-6]

  a + b = c    かつ    ( a, b ) = 1    かつ    s = ( a2 + b2 + c2 )/2

とすれば,s を割り切る素数は 3 か { 6k+1形の素数 | kは適当な自然数 } に限られる.

[証明]

  s を割り切る任意の素数を p とする.さらに,

  0 ≦ r0 ≦ p-1                                                                  
                                                                                            (1-6-1)
であるような整数 r0 を p を法とする剰余と呼ぶ.

  さて,一般に任意の整数を n, 適当な整数を q とすれば,

  n = qp + r0                                                                   
                                                                                            (1-6-2)
と表される.このとき,

  n ≡ r0     ( mod p )
                                                                                            (1-6-3)
と書く.ここでは,0 でない剰余を r として,

  px + ry = 1                                                                   
                                                                                          (1-6-4-1)
となるような整数 x,y が存在することが分っているものとして以後の証明をする.

  1-6-4-1 を踏まえて,( 1-6-4-1 とそれに関係する定理などの証明については後節を参照.)

  ry ≡ 1
                                                                                          (1-6-4-2)
  さらに,別の剰余を r' とすれば,

  y ≡ r'
                                                                                          (1-6-4-3)
とできるので,

  rr' ≡ 1                                                       
                                                                                          (1-6-4-4)
となる.

  すなわち 0 を除いた剰余たちは必ず乗法に関して逆元を持つ.言い換えると割り算が行なえる.

  さて,以前に示したように,

  s = ( a2 + b2 + c2 )/2 = a2 + ab + b2

であったから,s を割り切る任意の素数が p ならば,

  a2 + ab + b2 ≡ 0     ( mod p )
                                                                                          (1-6-5-1)
  p を法とする乗法群において b の逆元を b' とすれば,

  bb' ≡ 1                                                                       
                                                                                          (1-6-5-2)
  さらに x を適当な剰余として,

  x ≡ ab'                                                                       
                                                                                          (1-6-5-3)
とすると,1-6-5-1 は,

  (ab')2 + (ab')(bb') + (bb')2 ≡ 0
                                                                                          (1-6-5-4)
  ∴ x2 + x + 1 ≡ 0
                                                                                          (1-6-5-5)
  したがって,

  x ≡ 1  ならば  p = 3                                                                   (1-6-6-1)

  実際 1 + 1 = 2 の固有値は丁度 3 である.ゆえに,s を割り切る可能性のある素数 p に 3 が含まれる.

 次に,

  x ¬≡ 1    かつ    x3 ≡ 1    ( mod p )                  
                                                                                          (1-6-6-2)
が成り立つ場合の素数 p についてを考える.

 G = { 1, 2, 3, …, p-1 } として,G の任意の元を g とすると,集合全体として,

 { g, 2g, 3g, … , (p-1)g } = { 1, 2, 3, …, p-1 }                           
                                                                                          (1-6-7-1)
  ∴ g・2g・3g … (p-1)g ≡ 1・2・3 … (p-1)      ( mod p )                       
                                                                                          (1-6-7-2)
  ∴ gp-1・1・2・3 … (p-1) ≡ 1・2・3 … (p-1)  
                                                                                          (1-6-7-3)
  ∴ gp-1 ≡ 1       ( フェルマーの小定理 )   
                                                                                          (1-6-7-4)
 そこで m を

 gm ≡ 1
                                                                                          (1-6-8-1)
であるような最小の自然数とする.( 通常,このような g を m 位の元であるという.)このとき,

 m は p-1 の約数である.                                                                 (1-6-8-2)

 なぜなら,

 p - 1 = mq + r   かつ 0 ≦ r < m
                                                                                          (1-6-8-3)
と表せるが,

 xp-1 = xmq+r = (xm)qxr ≡ xr ≡ 1      ( mod p )
                                                                                          (1-6-8-4)
となり r = 0 でなければ矛盾である.なぜなら,xm ≡ 1 である最小の自然数が m であったのに,

 r は m より小さくて,しかも xr ≡ 1 となってしまうから.

  さて 1-6-6-2 によれば x は 3 位の元である.よって 1-6-8-2 から 3 は p-1 の約数である.

  さらに,5 以上の素数は ( 6 の倍数 - 1 ) か ( 6 の倍数 + 1 ) に限られる.

  ゆえに,1-6-6-2 を満たすような素数 p は ( 6 の倍数 + 1 ) である.

  ゆえに, s を割り切る素数は 3 か { 6k+1 形の素数 } に限られる.

  証明終り.

 この逆にあたること,すなわち,

[問題 1]

 3 か { 6k+1形の素数 } の任意の合成数を固有値に持つ三項式は必ず存在するか?

[問題 2]

  問題 1 の性質を持つ三項式は何個あるか?

[問題 3]

  問題 1 の性質を持つ三項式を全て求める方法があるか?

という問題も肯定的に解決できる.それには,判別式 が -3 であるような二次拡大整数環の基本性質の研究が

不可欠となる.それで次節では簡単にこれらの事柄などについてを述べる.




→ §2
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